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「一緒にやろう!」という親の言葉が、子どものやる気に火をつける

今回は、“プレイフル・ラーニング”という新しい学びのあり方を提唱し、さまざまな学びの場づくりを実践してこられた上田信行先生にお話をうかがいました。


緊急事態宣言が徐々に解除され、学校が再開した地域もあり、戻ってきた日常にほっとしている親御さんもいらっしゃると思います。


休校中は、子どもが机に向かわなかったり、一生懸命に教えても同じところを間違えたり、家庭学習に苦労された方もいるかもしれません。
けれど、学ぶことにじっくり向き合えた貴重な時間を、これからの学びにも生かしてもらえたらいいな。そんな思いがあって、「学ぶことは楽しい!」というメッセージを発信しつづけている上田先生にインタビューをお願いしました。


取材中は、わたしたちも童心に返ったような気持ちでワクワクしながら先生の言葉に耳を傾けました。そして、しゅくだいやる気ペンが何を目指しているのか、その原点に立ち返ることができたように思います。


いまこそ、宿題のとらえ方を変えるタイミング


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上田先生:昨日、同志社女子大学のゼミの教え子のなかに小学校の先生がいるのを思い出して、電話をしてみました。彼女もちょうど休校中の生徒たちにどんな宿題を出したらいいのか頭を悩ませているところでした。
「この宿題は、どんなふうに教えたらいいんですか?」という親御さんからの問い合わせがたくさん来るということも教えてくれました。親御さんも先生も、子どもに家で勉強させるということにとても苦労しているということがよくわかりました。
僕がいま感じているのは「宿題のとらえ方を変える機会がきたのかもしれないな」ということです。

かきほめ:なるほど。宿題のとらえ方ですか。

上田先生:はい。それで、今からちょっとびっくりするようなことをあえて言ってみます。「そもそも、宿題は親子で一緒にやるものだ」という考え方をしてはどうかということなんです。

かきほめ:それは……、そうですね。ちょっと、びっくりしました。

上田先生:そうですよね。宿題は子どもが一人でちゃんとやってこそ意味があるというのがいまの学校の考え方ですよね。それに、お母さん、お父さんは、ただでさえ忙しいのに、子どもと一緒に宿題をやれって、そんなの無理だよって思いますよね。


でもね、気の進まないことや苦手なことをするために、いちばん簡単な解決策は「誰かと一緒にやること」なんですよ。誰かと一緒にやると、かならず楽しくなる。話し合うことによってコミュニケーションが生まれるからです。

かきほめ:たしかにそうですね。大人も、一緒に頑張れるチームメンバーがいたりすると、仕事が楽しくなったりしますよね。

上田先生:そうなんです。いま、子どもたちは学校に行けない。仲間に会えない。だからこそ親子が「宿題共同体」になったら、学びの楽しさを家庭のなかに作り出せるんじゃないかと僕は思いました。


宿題を「親子共同プロジェクト」にしよう!


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上田先生:でも、2年生や3年生といった低学年の宿題だと、大人にとっては簡単すぎますよね。その簡単な宿題をわざとわからないふりをしながらやるのでは意味がありません。その宿題を子どもと一緒に取り組む「プロジェクト」に変えるんです。
「この宿題、ちょっと簡単すぎない? もっと深いところまで考えてみたらおもしろいんじゃない?」なんて、お子さんと話しながら、宿題を“自分たち事”にしてしまうのです。

この課題設定の考え方は、とても大切なことです。
与えられた課題をやるのではなく、課題そのものを自分たちで意味づけし、価値づけるのです。

人というのは、誰かに「やらされる」から楽しくないんです。子どもにとって、いまの宿題がつまらない原因も、「やらされているから」ですよね。だから、楽しいと思えるものに親子で作り変えればいいのではないでしょうか。

たとえば「県庁所在地を覚えてきなさい」という宿題が出たとします。ただ覚えるだけだとつまらない。その県の特産品とか、県庁のマークなんかも一緒に探して、イラスト入りの大きな地図にして提出してみる。そうしたら、先生はものすごくびっくりするでしょうね。

かきほめ:なるほど! 子どもって大人をびっくりさせるのが好きだったりするので、「一緒に先生をびっくりさせようよ!」って言ってみたら、すごく楽しんでやるような気がします。

上田先生:そして、それを受け取る先生も変わらないといけないと思うんです。「親が手伝ったからこんなことできたんでしょう」って思わないでほしい。このような取り組みを「親子で一緒に学びを深めていくってすばらしい」って先生が評価できるかどうかも大事なポイントだと思います。
先生自身も、この親子をうならせるようなすごい宿題を出さなくては! という気持ちになれるかどうか。教育に携わるものが、こんなふうに宿題の新たな文化を、勇気をもってつくっていけたら「宿題が嫌だ」っていう子どもはいなくなると思います。


子どもの学びが楽しくなる親のサポートとは?


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かきほめ:日常生活で、子どもに「学ぶことは楽しい」と伝えるにはどうすればいいでしょうか。

上田先生:大事なことですね。親のかかわり方が子どもの学びに大きな影響を与えているということは、さまざまな研究結果から明らかなんです。
以前、幼児教育の専門家からうかがったのですが、子どもが遊んでいる時に「ああしなさい」「こうしなさい」「あれはダメ」「これはダメ」と子どもに多くのことを強制する家庭と、子どもに選択権を与え、自主性を重んじ、親が共感的に遊びに関わっている家庭の子どもを20年後に追跡調査したところ、後者のほうが高いモティベーションを持って大学受験や資格試験などの難関を突破し、自分の夢を実現していたというデータがあるそうです。(詳しくは下記のサイトを参照)

https://kodomo.benesse.ne.jp/open/playfullearning/reports/02.html

https://kodomo.benesse.ne.jp/open/playfullearning/reports/04.html

これは、親が子どもに「どう関わるか」の影響を考えるうえでわかりやすい例ですね。つまり、子どもに何かを強制することは、明らかに学びや成長の妨げになるということなんです。

かきほめ:そうなんですか……。「勉強しなさい!」と子どもに言いつづけることも強制ですよね。子どものためを思って言っていたことが、逆効果なんですね……。

上田先生:家庭学習の時間は、親が「強制」から「共感」に関わり方を変えていくチャンスかもしれません。だから「宿題は親子で一緒にやろうよ! 一緒に楽しもうよ!」っていうのはすごくいいアイデアだと思うんです。

かきほめ:しゅくだいやる気ペンは、親が子どもを「ほめるポイント」を見つけられるように、いろいろな工夫をしている商品ですが、ほめることやポジティブな言葉をかけることも、子どもが楽しく学ぶために効果があるでしょうか?

上田先生:お母さん、お父さんにほめられることはもちろん子どもにとってはうれしいことだし、学びのモチベーションになると思います。ただし、親御さんにはどこをほめるのかを注意深く考えてほしいと思います。子どもが頑張ったことをほめる、工夫して努力したことをほめる」。これが僕からのアドバイスですね。

「どうせ、できない」「こんなの僕/わたしには無理」と、最初から諦めてしまっている子どもが日本にはたくさんいます。それは、子どものうちから自分の力では何もできないという無力感を獲得してしまったからです。

この無力感を取り払うのは大人になってからではとても難しい。社会人向けの研修で、「あなたは世界を変えることができると思いますか?」と質問することがありますが、「自分にはそんな大それた事はできない」と答える人がほんとうに多いんです。

こうした無力感を学んでしまわないように、親御さんが上手にほめるということは大切ですね。生まれ持った数学的センスや暗記力といった子どもが自分では変えられないものをほめるのではなく、「今日も机に向かえたね!」「30分も集中できたじゃない!」「問題の解き方がカッコよかったね」というように、子どもの努力そのものをほめてあげてほしいですね。

かきほめ:なるほど。そうやって、子どもは「僕/わたしはできる!」という自信を獲得していくんですね。日々の宿題が、子どもの自信を積み上げていく機会になれたら親としてはうれしいです。

上田先生:もうひとつ大事なのは、子どもが自分で自分をほめるということです。
学習のプロセスには「振り返り」が大事なんですが「うまくいったこと」「できたこと」に注目して振り返るほうがいい。

わたしのゼミでは、小学校の先生方や企業の方々を対象に多くのワークショップをやります。ワークショップが終わったあと、みんなで振り返りをするのですが、ときどき、学生たちは泣き出してしまうことがあるのです。「もっとこうすればよかった」「こういうところができなかった」という悔し涙です。振り返りが「反省会」になってしまうんです。

だから「よかったところに注目しよう」「できたところをほめよう」というルールを作って振り返りをするようになりました。そのほうが「次はこうしたい!」「こうすれば良くなる」というアイデアがたくさん出るようになりました。反省会ではなくセレブレーション・パーティでいいのです。

かきほめ:宿題を見ているとき、ついつい「どうしてここができないの?」「さっきも教えたのに間違えちゃダメじゃない」と言ってしまいますね……。「ここができたね」「すごいじゃない」っていう言葉のほうが大事なんですね。

上田先生:極端なことを言えば「できる/できない」は、もう気にしなくていいと思います。それよりも「子どもがどれだけその宿題で楽しんでいるか」に目を向けてほしいですね。まるで大好きなお菓子を味わうように子どもが宿題を堪能していたら、それはすばらしいことです。「そんなにこの宿題を楽しめるなんてすごい!」ってほめてあげてほしいです。

先生たちも、子どもに「味わってもらえるような宿題」を研究して出してほしいですね。「先生、この宿題、味ありますねー」って子どもに言わせたらすごい先生だと思います(笑)。


「アウトプット」は、学びの楽しさをつくり出す


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上田先生:「クリエイティブ・ラーニング」という言葉を耳にしたことがある方も多いと思います。日本語でいうと「創造的な学び」ということなのですが、もっとシンプルにいうと「何かをつくることによって学ぶ(learning by making)」ということです。

いま、日本の小学校にも導入されているプログラミング言語の“Scratch”の開発者であるミッチェル・レズニックは、知識というものは、誰かに与えられるものではなく、みずからが構築するものだ(構築主義的学習[constructionist learning])と説明しています。
実際に手を動かし、自分の頭で試行錯誤しながら知識を生成していくということですね。

ですが、いま学校から出ている宿題はどうでしょうか。
「こことここを覚えてきなさい」「この教科書を読んできなさい」というインプット型の宿題がほとんどなのではないかと思います。
大人だったら「楽しくないけれど、この課題はあとで役に立つから頑張ろう」という思考ができますが、子どもはそうではありません。いまやっていることが楽しくない限り、子どもというものはやる気を起こさないのです。

さきほどの課題を自分で再構成するとか、プロジェクト化するということともつながってきますが、宿題のなかに、アウトプットの要素を入れることが、宿題を楽しくするコツのひとつだと思います。

自分が学んだことをイラストにしたり、文章にしたりして表現する。さらに、「自分がつくったもので人を楽しませよう」という考えが、学びの楽しさにつながっているんです。
みんなのために宿題そのものを考えるというのも楽しい宿題になるかもしれませんね。


学びの楽しさは「変われること」「成長すること」にある


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上田先生:「しゅくだいやる気ペン」はとてもおもしろい商品だと思います。僕も文房具が大好きなので、光の色が変わるLEDライトなど、子どもが持ちたくなるような工夫がされているなぁと感心しました。

ただ、ひとつ気になったのは、このペンが「子どもを管理するツール」として子どもの手に渡ってしまう可能性もあるのかなということでした。
「管理」というのは「楽しさ」の対極にあるものです。「子どもに宿題をやらせよう」「子どもの勉強時間を管理しよう」というような親の動機でこのペンを使わせても、子どもが楽しんで勉強することはきっとないです。そうすると、みなさんの思いとは違ってくるのではないかと。開発者としても、そのあたりはとても気にされていると思うのですが。

かきほめ:まさに、僕たちが親御さんにお伝えしたいのもそこなんです。このペンはたしかに、親の使い方次第で「管理ツール」のようになってしまいます。
でも、僕たちの思いとしては、このペンで親子のコミュニケーションを変えること、その結果、幸せな子どもを増やすことがゴールなんです。

ユーザーに配布しているガイドブックには、「しゅくだいやる気ペンを通して、まずはお父さん、お母さんが意識をちょっと変えてみてください」という一文を掲げました。

「お父さん、お母さんがまず変わってください」なんていうのは、メーカーとしてはちょっと勇気のいる発信です。「こちらの大変さも知らないで偉そうに」「余計なお世話だ」と思う方もきっといらっしゃると思います。でも、僕たちはこの言葉と一緒にしゅくだいやる気ペンを届けたいんです。そうじゃないと、作った意味がないとさえ思っています。

今日、上田先生が「教育に携わる大人が宿題の文化を勇気をもって変える必要がある」とおっしゃったこと、とても刺さりました。僕たちも、その文化を担う一端でありたいとあらためて強く思いました。

上田先生:ありがとうございます。僕も、みなさんの熱い思いをおうかがいして、これからの教育はもっともっとおもしろくなると感じています。一緒に新しい文化を作っていけるといいですね。

学びの楽しさの源は「自分は成長できる」「変わっていける」のだという体験にあります。このペンを子どもたちがしっかり握って書き、「自分の力でやりとげた」とか「これは、お父さんやお母さんと協同して勝ち取ったものだ」という体験を増やしていけたらとてもすばらしいと思います。

僕は、30年以上、学習における場の力について研究してきました。直接、対面で人と会うことが大事だとも思ってきました。けれど、コロナ禍のなかで、人とは簡単に会えない状況になり、僕にとってもまさに新たなチャレンジがはじまったという感覚があります。
今年の3月に退官を迎えたところですが、まだまだ僕自身も成長するチャンスがある。そう思うとやっぱり、ワクワクしてきますね。

(編集後記)
かきほめノートでは、外出自粛に取り組むため、上田信行先生にも、奈良県にあるご自宅からオンラインで取材をさせていただきました。文房具が大好きだとおっしゃる先生から、壁一面に並べられた文房具のコレクションを見せていただいたときは、まるで先生の秘密基地をのぞいたような気持ちでした。次回も引き続き、上田先生から学びの楽しさについてうかがいます。

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【PROFILE】上田信行(うえだ・のぶゆき)さん
同志社女子大学名誉教授、ネオミュージアム館長。1950 年、奈良県生まれ。同志社大学卒業後、『セサミストリート』に触発され渡米し、セントラルミシガン大学大学院にて M.A.、ハーバード大学教育大学院にて Ed.M., Ed.D. (教育学博士)取得。専門は教育工学。プレイフルラーニングをキーワードに、学習環境デザインとラーニングアートの先進的かつ独創的な学びの場づくりを数多く実施。1996~1997 ハーバード大学教育大学院客員研究員、2010~2011 MIT メディアラボ客員教授。著書に『プレイフルシンキング:仕事を楽しくする思考法』(2009, 宣伝会議)、『協同と表現のワークショップ:学びのための環境のデザイン』 (2010, 共編著、東信堂)、『プレイフルラーニング:ワークショップの源流と学びの未来』(2013,共著、三省堂)、『発明絵本 インベンション!』(2017, 翻訳、アノニマ・スタジオ)など。

7月に新刊『プレイフルシンキング【決定版】働く人と場を楽しくする思考法』(宣伝会議)が発売予定。


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テキスト・岡田寛子/イメージ写真・上野俊治

第5回_上田先生


取材した甲斐があります◎
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