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お母さんと子どもの幸せな対話のコツ


今回は、ご夫婦で活躍される「幸福学」の研究者であり、ひとりのお母さんとして二児の子育て、中学受験、そしてPTAの会長(!)を経験された前野マドカ先生にお話をおうかがいすることができました。

子どもたちが学校に行けず、友達にも会えない日々を過ごすいま、探究心や好奇心を育むためにも「家庭学習」の役割はいっそう大きくなっているように思います。
家庭学習の時間を親子にとっての幸せな時間にするにはどうしたらいいのでしょうか。
「幸福学」の観点から、マドカ先生にアドバイスをいただきました。

時間と空間をつくる家族の「対話」が必要


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かきほめ:自粛生活がはじまり、ひと月以上が経ちました。いままで以上に家庭で過ごす時間が増えたことでいろいろな問題も起こっているように思います。いまを乗り切るため、私たちが心においておくべきなのはどんなことでしょうか。

マドカ先生:自粛生活で最初に気になるのは、プライベートの空間が取りにくいということでしょうか。これまで、家というものは、それぞれが外での活動を終え「帰ってくる場所」でした。でも、いまはそれが「仕事をする場所」になり「遊ぶ場所」になっています。

人は、自分のやっていることに夢中になればなるほど、周りのことが見えなくなってしまうものですが、視野が狭くなることはストレスや不満の原因を作り出してしまいます。
家族みんなで一日のスケジュールを話し合い、活動時間を区切るなどして、ストレスを溜めずに過ごせる方法を探ることが必要でしょうね。

子どもに対して、頭ごなしに「静かにしなさい!」と言うのではなく、「お父さんは、家族のために働いていて、大事な仕事があるから〇時~〇時は静かにするように協力してほしい」などと、きちんと相談するのがいいと思います。そして、このような対話をきっかけにふだんは見えづらい大人の仕事の現実を子どもに伝えることもできますよね。逆に、子どもがリビングでゲームする時間や、遊んでいい時間というのも、子どもが納得したうえで約束やルールにしていくことが大事だと思います。

かきほめ:「これから取材だからゲームはやめてくれ」とさっき子どもに言ってしまったところです(苦笑)。親も子どもが納得して仕事に協力してくれるような段取りが必要ですね。

いまは、小さな出来事に幸せを感じるチャンス


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マドカ先生:自粛生活は運動不足や友達に会えないという弊害もありますが、ふだんは忙しくて家にいることが少なかった家族が一緒にいるという幸せを感じる、とてもいい機会のように思うんです。
我が家は子どもたちも大きくなり、親も仕事で家にいることが少なくなっていたのですが、今回のことで、家族で食卓を囲む機会がまた増えました。毎日のように子どもたちが小さかった頃のことを思い出し、話をしています。
こういう時間が幸せだったと再認識することも多いです。

小学校低学年くらいの子どもなら、いま、大人がいろいろな不自由を強いられながら、それでも生活を維持するために頑張っていることはわかっていると思います。だからこそ、穏やかで前向きな対話をして、子どもに愛を伝えることができれば、この経験が子どもにとって愛情にあふれたとてもいい思い出になると思います。


今日できる幸せな対話のヒント


かきほめ:「子どもと一緒にいられてうれしいな」と感じる瞬間はたしかに増えました。でも、やっぱりぶつかってしまうことも多くて。私がイライラしているからなのか、子どもも反抗的な態度で接してきます。家のなかで生まれてしまうこうした悪循環にはどう対処するのがいいのでしょうか。

マドカ先生:親御さん、とくに、お母さんたちはほんとうによく頑張っていると思います。でも、自分が疲れていたり、いっぱいいっぱいの状態では、子どもに穏やかに接するのは難しいですよね。
まだ子どもたちが小さかったころ、イライラ・ギスギスしてしまったことが私にもあったなあと思い出されます。
いちばん大事なのは、お母さんたちの負担やストレスを軽減することだと思います。
そのためにお母さん自身がすぐにできるのは、一日のなかに、少しでいいから自分を取り戻す時間を作るということでしょうか。

具体的な方法が3つあるので、ご紹介しますね。

1.一日の終わりに「今日のうれしかったこと」や「感謝したいこと」を3つ挙げる

ノートに書くのがおすすめですが、小さいお子さんがいると、ノートに向かう時間を取ることは難しいかもしれません。そういうときは、お子さんと一緒に夕食を食べながらやってみましょう。親がどんなことをうれしいと感じるか、どんなことに感謝をしているかといったことは、子どもの価値観の基盤をつくる大事な情報なんです。
できれば、これを毎日続けてみてください。だんだんと内容が変化していくことがわかると思います。最初のうちは、誰かから何かをもらったとか、これが買えたという物質的なことや、非日常な特別なことしか思い浮かばないかもしれませんが、毎日やっていると、花を見てきれいだと思ったとか、子どもが元気でいてくれることをうれしいと感じたというように、ふつうの生活のなか、自分の内面に幸せを見つけられるようになります。幸福学の研究でも、内面の幸せを見つけられる人の幸福度は高いということがわかっています。

2.「今日の私が頑張ったこと」を探す

これは、アメリカの小学校では「子どもの宿題」として出されるほどよく知られている方法です。子どもが自分で頑張ったことを探し、“Good job, me!”と言うそうです。
日本のお母さんたちはほんとうにほめられる機会が少ないですよね。子育てや家事に明け暮れて当たり前だと思われている。だから、お母さんたちには自分で自分をほめてほしいと思います。自分で頑張ったと思えることを探して言葉にしてみてください。「今日は何もできなかった……」と落ち込んでしまう日でさえ、探してみれば必ずほめられるポイントがあるものです。そうした日々の小さな成功体験が、前向きな考え方や自信につながっていきます。

3.「私はできることは全てやった。あとは手放そう」と心の中でつぶやく

上の2つが毎日やるものだとしたら、これは、困ったとき、ネガティブな気持ちが押し寄せてきたときにやると効果を発揮する方法です。
次のように大きく深呼吸します。息を吸いながら「私はできることは全てやった」、息を吐きながら「あとは手放そう」と心の中で唱えてください。シンプルな方法ですが、やってみて楽になったというお母さんたちの声をたくさん聞いています。
人は、ネガティブな感情を自ら手放すのが苦手です。ですから、深呼吸と共にそのきっかけをつくると効果があります。ネガティブなものを手放すと、自分のなかに余裕ができ、状況を変えるアイデアを思いついたり、ほかの人からのアドバイスを受け入れたりできるものです。


子どもにとっては「机に向かう」だけですごいこと


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かきほめ:学校や塾からたくさん宿題が出ていて、家庭で机に向かう時間が増えました。けれど、親が促さないと勉強しなかったり、明らかに集中していない様子を見ると、どうしても口うるさくガミガミ言ってしまいます。
マドカ先生は、中学受験も経験されているので、お子さんを机に向かわせるのには、ご苦労もあったかと思います。どんなふうに、日々の勉強に取り組んでおられたのですか。

マドカ先生:じつは私は、細かいことをあまり気にしないようにしていました。同じ時期に、PTAの仕事もやっていたので、私自身が忙しかったというのもあるかもしれません。
塾から宿題がこれだけ出ていて、ここまで終わらせていなければいけないだとか、志望校に受かるためには次のテストでこれくらいの成績をとっておかなければいけないとか、そういう情報をあまり耳に入れないようにしていたんです。
その結果、子どもが宿題をやっていなくて困ったことも何度かあったのですが……。そこは、子どもを信じて任せていましたね。

家庭での学習の時間に、私が一つだけ気を配っていたのは、勉強に向かったあと必ず「頑張ったね」とほめることでした。
遊び盛りの子どもにとって、毎日勉強する、机に向かうというのはそれだけでとっても大変なことだと思うんです。だから、それを続けられていることを心からすごいと思っていました。その思いをそのまま子どもに伝えていました。

かきほめ:なるほど。「宿題を終わらせたか」とか「テストで何点取った」という結果ばかり気にしてしまいますが「毎日勉強に向かう姿勢」に気づいてあげることが大事なんですね。


「言葉のシャワー」が子どもを育てる


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マドカ先生:小学校低学年くらいの子どもにとっては、親のかける言葉が大きな存在感を持っています。
子どものことを大切に思う気持ちはみんな同じだと思いますが、多くのご家庭では、愛情を言葉にして伝えるということを意識的にはやっていないかもしれません。
私は「言葉のシャワー」が子どもを育てると思っています。
「愛している」という直接的な言葉ではなかったとしても、靴をそろえることができたら「きれいにできてすごいね」とか、おもちゃを片づけてくれたら「助かったわ、ありがとう」と、どんな些細なことにもちゃんと言葉で反応するように心がけていました。

塾に通うようになると、宿題もたくさん出ますし、遊ぶ時間が減ったり、友達と会う時間も減ってしまいます。限られた時間のなかで、子どもの心を満たすには、やはり親が言葉をかけるということが大事なんですよね。
声をかけるというのは、「あなたを見ている、認めている、大事に思っている、あなたがいてくれてよかった」ということを伝える大事な手段なんです。

かきほめ:なるほど。物を与えるのではなく「言葉を贈る」ということが大事だと思われたのには、何かきっかけがあったんですか?

マドカ先生:このことは、娘に気づかせてもらったかもしれません。私が娘にかけたのと同じ言葉を友達にかけているのを見たんです。
相手を思いやった優しい言葉のかけ方、対話の仕方を子どもは親から学ぶんですよね。私が娘に言葉を伝え、愛情をいっぱいに注げば、娘は周りの人にも愛情を注げる人になるんだなと思いました。
親子のコミュニケーションが愛情にあふれたものであれば、家庭の外にある子どもの人間関係も良くなるんです。愛をこめた言葉というのは、いつかは親元を離れ、他者と生きていく子どもに対して親があげることのできる、とても大切な贈り物だと思います。


子どもには「いま」を楽しむ強さがある


マドカ先生:中学受験をしてよかったと思うのは、子育てにとっての重要なことを私自身がたくさん学べたからです。
「合格だけがゴールじゃない」ということに気づけたのはとても大きかったと思います。「もし、子どもが途中で受験をやめてしまっても、それは子どもにとってこのチャレンジが早すぎただけだよね」と思える親でいたいと考えていました。

かきほめ:中学受験というと、お母さん自身もピリピリしているイメージでした。そんなふうに穏やかな気持ちで受験に向かわれたというのは驚きです。

マドカ先生:お母さん同士、良い関係を築けたのはありがたかったですね。「成績」や「志望校」のことばかり話すとどうしてもギスギスしてしまうから、私はなるべくその話題に入らないようにしていました。
この考えに共感してくれる方は多くて「不合格になっても、ご縁がなかっただけ。子どもの頑張りは認めてあげようね」とよく話していました。
同じ塾には、不合格を知って、子どもの前で泣き崩れたというお母さんもやっぱりいましたから、良い仲間に恵まれて、自分が冷静でいられたことに感謝しています。

かきほめ:すてきな関係ですね。お子さんのチャレンジのおかげでお母さんにもすてきな仲間ができたんですね。

マドカ先生:ほんとうにそうなんです。そして、受験をしなかったお子さん、不合格になったお子さんのご家庭からも学ぶことがたくさんありました。

一つには、「子どもにはそれぞれに伸びる時期がある」ということだったのですが、それを教えてくれたのは、息子と同じ塾に通っていて、でも成績が上がらず、受験も塾もやめてしまったお子さんでしたね。

彼は、中学受験よりも野球に夢中で、もっと野球がしたいと言って塾をやめていきました。でも、それから3年後、高校の入学式で彼に再会したんです。中学受験はしなかったけれど、高校受験で、野球の強豪校でもあったその学校に入るため、もう一度チャレンジした。そして、見事合格。すごいですよね。

志望するすべての学校に落ちてしまっても、部活動をやったり、すてきな友達を作ったりして、思いっきり楽しんでいる子どもたちをたくさん見ました。親は結果にこだわってしまいがちだけれど、子どもは「自分の学校が最高!」と思える。「いま」「この瞬間」を存分に楽しもうという強さがあるんだと思います。


「好き」を見つけられた子はどんなときも頑張れる



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マドカ先生:いま、普段と違う生活のなかで、イライラしたり、不安定になったりしているお子さんもいることを、いろいろなお母さんたちからうかがっています。
けれど、好きなものがある子、何かに熱中できる子というのは案外落ち着いて過ごしているそうです。友人のお子さんがまさにそうなのですが「魚が好き」というその一点が、彼をものすごく支えています。


好きなものがある子は、いざというときにとても前向きに頑張れたりします。「自分の好きを知っている」というのはチャレンジする心にも直結しているんですよね。

かきほめ:なるほど。学校がなく、自由な時間があるいまだからこそ、ただ好きなことを追求するチャンスなのかもしれませんね。

マドカ先生:そうですね。子どもが自分でそれを見つけることができれば、いまを乗り切るためにも、これから先の長い人生のためにも、これほど強いものはありませんよね。


コクヨ社でも自粛に取り組んでいるなか、マドカ先生にはオンラインで取材を受けていただきました。会議室とは違い、子どもや家族の息遣いが聞こえるなかで聞くアドバイスは、とてもリアルで心に届くものでした。
次回もマドカ先生のお話が続きます。


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【PROFILE】
前野マドカ(まえの・まどか) さん

慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科付属システムデザイン・マネジメント研究所研究員。EVOL株式会社代表取締役CEO。IPPA(国際ポジティブ心理学協会)会員。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。幸せを広めるワークショップ、コンサルティング、研修活動及びフレームワーク研究・事業展開、執筆活動を行っている。
夫である前野隆司氏とともに「幸福学」を研究し、幸福になるための実践的な知識を伝えることをライフワークとしている。中学受験やPTAの会長も経験した二児の母として、子育てに悩むお母さんや、これから結婚したい、子どもを産みたいと考えている女性たちに対する、わかりやすく親切なアドバイスが共感を呼んでいる。


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テキスト・岡田寛子/撮影・前野隆司/イメージ写真・上野俊治



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